「今日は、なんしな?」
大分弁でこう聞かれたら、皆さんはどういう意味だと思いますか?
かぼみは、ずっと「今日は何の用事?」「何をしに来たんな?」という意味で使いよったんよね。
ところが、先日の大分弁講座で紹介したところ、思いがけないコメントが寄せられました。
「それは『なぜ?』『どうして?』という意味で使うよ」
えっ、そうなん!?😳
気になってSNSであらためて質問してみると、「何の用?」という人も、「なぜ?」という人も。さらには、両方の意味で使うという人まで!
方言資料を調べると、「なんしな=何の用?」という使い方が確認できる一方、「なぜ?」という意味については、複数の使用報告があるものの、資料による裏付けはまだ十分ではありませんでした。
では、なぜ同じ「なんしな?」に二つの意味があるのでしょうか?
今回は、皆さんから寄せられたコメントと方言資料をもとに、「なんしな」の意味や語源、「なし」との違い、地域差を深掘りします。
大分弁「なんしな」とは?意味と使い方

「なんしな?」は、相手の用事や目的を尋ねるときに使われる大分弁です。
標準語にすると、主に次のような意味になります。
- 何の用?
- 何をしに来たの?
- 何をするために?
例えば、
「今日は、なんしな?」
=今日は何の用事?
「そげな所に、なんしな?」
=そんな所に何をしに?
という使い方です。
大分弁を収集した個人資料にも、「今日は、なんしな」を「今日は、何の用かな」と説明した例が掲載されています。
また、大分県関西事務所が掲載する『大分話し言葉 用語・用例辞典』には、似た言葉の「なんしい」が収録されています。
その意味は「何をしに」「何のために」。
会議が終わった後に来た人について、何をしに来たのだろうと尋ねる用例が紹介されています。
つまり、「なんしな=何の用事?」は、方言資料でも裏付けがある使い方なのです。
ただし、今回のコメントでは、もう一つの意味が登場しました。
「なんしな」は「なぜ?」という意味でも使う?

今回、SNSでこんな質問をしました。
「なんしな?」って、どっちの意味で使いよる?
① 何の用事?/何をしに来たんな?
② なぜ?/どうして?
③ どっちも使う
すると、県内のさまざまな地域からコメントが寄せられました。
「何の用事?」という使い方
臼杵市の方からは、
今日は、なんしな
(今日は何の用事な)
というコメントがありました。
また、こんな会話を紹介してくれた方も。
「公民館に行きよんのや」
「なんしな?」
この場合は「何をしに行くの?」という意味ですね。
さらに、里帰りしたときに近所の人から「今日はなんしな?」と聞かれる、という思い出も寄せられました。
相手の用事を尋ねるだけでなく、日常的な声かけとして使われていたこともうかがえます。
「なぜ?」「どうして?」という使い方
一方で、佐伯市出身の60代の方からは、
なぜ?という意味で使います。
という回答がありました。
ほかにも、
「なんし、こげぇなるんな?」
という言い方や、誰かに「向こうに行け」と言われて、
「なんしなー?」
と返す例が紹介されています。
後者は「何の用事?」ではなく、「どうして行かんといけんの?」という意味ですね。
また、佐伯市や大分市などから「両方使う」という声も寄せられました。
このように、「なんしな」を理由を尋ねる言葉として使う人がいることも、今回のコメントから分かりました。
ただし、現時点で確認できた方言資料では、「なんしな」そのものを「なぜ?」という独立した意味で説明する十分な記録は見つかっていません。
実際の使用報告として大切にしつつ、どの地域でどの程度使われているのかは、今後も調べる必要があります。
なぜ「何の用?」と「なぜ?」に意味が分かれたのか?

ここが今回、一番気になったところです。
「何の用?」と「なぜ?」
一見すると違う意味ですが、実際の会話では、二つの質問が近い意味になることがあります。
「目的」と「理由」は似ている
例えば、突然友達が家にやって来たとします。
「何しに来たん?」
「なんで来たん?」
前者は、来た目的を尋ねています。
後者は、来た理由を尋ねています。
しかし、どちらに対しても、
「ちょっと相談があって」
と答えることができますよね。
つまり、「何をするために?」と「どうして?」は、会話の中で重なる場合があるのです。
このため、「何の用?」という意味の「なんしな?」が、場面によって「なぜ?」と受け取られる可能性があります。
ただし、これだけでは説明できない使い方もあります。
もともと別の言葉だった可能性も
今回のコメントでは、
「なんしな」は「何の用?」
「なしな」は「なぜ?」
と区別する方もいました。
さらに、「なんしな?」自体を、意味によって異なる言い方として捉えているという声もありました。
もし、もともと異なる言葉が似た発音になったのであれば、同じ「なんしな?」という表記に二つの意味があるように見えることも考えられます。
ただし、これはまだ仮説です。
一つの言葉の意味が広がったのか、別々の言葉が似た形になったのか。
今回の資料だけでは、どちらとも断定できません。
なお、イントネーションによって意味を区別するというコメントもありましたが、これは個人の使用例です。地域全体に共通する特徴かどうかは、現時点では分かっていません。
「なんしな」の語源は?「何しに」との関係

「なんしな?」は、どこから生まれた言葉なのでしょうか。
「何の用?」という意味については、「何をしに」「何しに」と関係する言葉と考えるのが自然です。
大分弁には、実際に「なんしい=何をしに」という表現が記録されています。
そのため、
「何をしに」
「何しに」
「なんしい」
といった言葉と、「なんしな?」が関係している可能性があります。
例えば、「何をしに来たの?」という言葉が、会話の中で短くなり、独特の言い方として定着したのかもしれません。
ただし、これは言葉の形と意味から考えられる推測です。
「なんしい」が変化して「なんしな」になったという歴史的な証拠は、今回確認できていません。
また、最後の「な」がどのように成立したのかも未解明です。
「なんしな?」そのものの古い記録や発祥地域も、現時点では特定できていません。
「なんしな」と「なし」は何が違う?

ここで、似た大分弁「なし?」との違いを整理してみましょう。
大分弁の「なし?」は、「なぜ?」「どうして?」という意味で使われます。
例えば、
「なし、来んかったん?」
なら、「どうして来なかったの?」という意味ですね。
大分県関西事務所の方言資料でも、「なし=なぜ・どうして」と記録されています。
一方、「なんしな?」は、資料で確認できる限りでは「何の用?」という意味が中心です。
| 言葉 | 主な意味 |
|---|---|
| なんしな? | 何の用?/何をしに? |
| なんしい | 何をしに/何のために |
| なし? | なぜ?/どうして? |
| なしか? | なぜ?/どうして? |
| なしな? | なぜ?/どうして?という使用報告あり |
| なんしよん? | 何をしているの? |
※「なんしな?」を「なぜ?」と使う例や、「なしな?」については、今回のSNSコメントによる報告も含みます。
「なんしな」と「なしな」は一音違い?
今回、こんなコメントもありました。
①「何の用」なら「なんしな」、②「なぜ」なら「なしな」。
つまり、「ん」の有無で意味を区別するという方です。
また、「なし」「なしえ」「なしな」は使うけれど、「なんしな=何の用」は初めて聞いたという声もありました。
一音違うだけで、意味が変わる。
ただし、すべての人がそのように区別しているわけではありません。
今回のコメントでは、「なんしな?」を「なぜ?」という意味で使う方もいます。
「なんしな」と「なしな」を区別する人もいれば、そうした区別だけでは説明できない使い方をする人もいる。
ここが、今回の調査で見えてきた興味深い点です。
大分県内でも地域差がある?

今回のコメントからは、地域による違いも見えてきました。
臼杵周辺
臼杵市からは、
「今日は、なんしな?」
という、用事を尋ねる使い方が寄せられました。
かぼみ自身も、この意味で使っています。
一方、臼杵市でも「両方使う」という回答がありました。
佐伯・南郡方面
佐伯市出身の方からは、「なぜ?」という意味で使うとの回答がありました。
また、佐伯市では「両方使う」という声も寄せられています。
南郡からも、理由を尋ねる意味で使うという報告がありました。
竹田・旧大野郡方面
竹田市の方は、「何の用?」という意味で使い、「なぜ?」の使い方はしなかったそうです。
旧大野郡の方からも「何の用?」という回答がありました。
一方、「なぜ?」なら「何じゃきな?」を使うという声もありました。
大分市・国東方面
大分市からは「両方使う」という回答がありました。
一方、国東方面では「なんしな?」を使わなかった、聞いたことがないという方もいました。
「なんかえ?」「なんじゃろか?」など、別の言い方が自然だという声もありました。
こうしたコメントを見ると、県内でも使い方に違いがあるようです。
ただし、今回の回答だけで「佐伯はなぜ派」「臼杵は何の用派」といった地域ごとの傾向を断定することはできません。
同じ市内でも異なる使い方が報告されているため、地域差だけでなく、家庭や個人による違いも考えられます。
「なんしな」は昔の言葉?世代差も気になる

今回のコメントには、
「ばあちゃんがよく使っていた」
「お年寄りが使いよるのを聞いた」
「子どもの頃は使っていた」
という思い出も寄せられました。
また、昭和30年代の佐伯市弥生で使っていたという具体的な記憶もありました。
一方で、「初めて聞いた」「使わない」という回答も複数あります。
こうした声から、世代によって使う頻度が違う可能性も考えられます。
ただし、「なんしな?」に限定した年代別の統計資料は確認できていません。
「昔の人だけが使う言葉」と決めつけず、これからもさまざまな年代の声を集めていきたいと思います。
かぼみ目線の一言コラム|「知っちょる言葉」ほど奥が深い

今回、かぼみが一番驚いたのは、「なんしな?」を「なぜ?」の意味で使う人がいたこと。
かぼみにとっては、
「今日は、なんしな?」
と聞けば、自然に「今日は何の用事?」という意味になります。
だから最初は、「なぜ?」というコメントを見て、ちょっと不思議な感じがしました。
でも、皆さんのコメントを読み進めると、「なしな?」との違いや、地域による使い方の違いまで出てきたんです。
普段何気なく使いよる言葉ほど、改めて説明しようとすると難しいんよね😂
今回も皆さんのコメントがなかったら、ここまで調べることはなかったと思います。
方言って、辞書に書かれた意味だけじゃなく、話す人の暮らしや、地域の記憶にも残っちょるんやなぁ。
そんなことを改めて感じた調査でした。
まとめ|「なんしな」の二つの意味は、まだ謎が残る

今回の調査で分かったことを整理すると、
- 「なんしな=何の用?」という使い方は、方言資料でも確認できる。
- 「なんしな=なぜ?」という使い方もSNSで複数報告されたが、資料上の裏付けはまだ十分ではない。
- 「なし」「なしか」は、「なぜ?」「どうして?」を意味する大分弁。
- 「何の用?」と「なぜ?」は、実際の会話では意味が重なる場合がある。
- 「なんしな」と「なしな」を区別する人もいるが、県内共通の使い分けとは確認されていない。
- 二つの意味がどのように生まれたのか、詳しい歴史はまだ分かっていない。
最初は「何の用?」という意味で紹介した「なんしな?」。
でも、皆さんのコメントをきっかけに調べてみると、「なぜ?」という使い方や、「なしな?」との違いまで見えてきました。
今回の一番の発見は、同じ「なんしな?」でも、話す人によって意味の捉え方が異なること。そして、その理由がまだ十分に解明されていないことです。
分からないことも残っていますが、それも方言を調べる面白さなのかもしれませんね。
皆さんの地域では、「なんしな?」と「なしな?」を使い分けていますか?
「うちはこう言いよった!」という記憶があれば、ぜひ教えてな〜!
参考資料・調査について
本記事は、大分弁の収集資料とSNSに寄せられたコメントをもとに作成しました。
主な参考資料
- 大分県関西事務所掲載『大分方言・用例集』:「なんしい」「なし」の意味と用例
- 個人収集資料『大分弁 な行』:「今日は、なんしな」の使用例
- 国東弁保存会:「なしか」の意味
- 土肥健之助編『大分縣方言類集』(1902年):大分方言の歴史的な基礎資料。今回、「なんしな」の該当記録は未確認
- X・Facebook・Instagramなどに寄せられた「なんしな?」に関するコメント
※SNSコメントは個人の経験や記憶を含みます。地域全体の使用傾向を示すものではありません。また、語源や意味の変化については、資料で確認できた事実と推測を区別して紹介しています。
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