【大分弁】「しゃーしい」はうるさい?忙しい?意味が分かれた理由と「しょわしい」との違い

「しゃーしい! ちったあ静かにしよ!」

子どもの頃、こんなふうに言われたことはありませんか?

大分弁の「しゃーしい」は、一般的に「うるさい」「わずらわしい」という意味で使われる言葉です。

しかし、地域によっては「忙しい」という意味でも使われています。

一見すると「うるさい」と「忙しい」は別の意味ですが、実はどちらも、古くからある「せわしい」という言葉につながっていると考えられます。

先日の大分弁講座で「しゃーしい」を紹介したところ、二つの意味についてさまざまなコメントが寄せられました。

そこで今回は、皆さんの声と方言資料をもとに、次の三つを深掘りしてみます。

  • 「しゃーしい」は「うるさい」「忙しい」のどちらが正しい?
  • なぜ一つの言葉に二つの意味があるの?
  • 「しゃーしい」と「しょわしい」はどう違う?

特に注目したいのは、「忙しい」と「うるさい」の意味が、どのようにつながっているのかという点です。

「しゃーしい」の意味は?【大分弁 → 標準語】

「しゃーしい」の意味は?【大分弁 → 標準語】

「しゃーしい(しゃあしい)」には、主に次のような意味があります。

意味使われる場面
うるさい大きな音や騒がしい人に対して
わずらわしい口うるさく言われたり、面倒なことが起きたりしたとき
忙しい用事が重なり、余裕がないとき(地域差あり)

大分・別府地方を中心にまとめられた『大分方言・用例集』では、「しゃあしい」を「うるさい(気に障る)」という意味で紹介しています。kansai.oita.jp

一方、国東弁保存会では「忙しい」「うるさい」の両方の意味を記録しています。

例えば、仕事が忙しくて残業する場面と、鶏の鳴き声がうるさい場面の両方に「しゃあしい」が使われています。https://kunisaki.org

つまり、「しゃーしい=忙しい」も、実際に確認できる大分弁の使い方なのです。

ただし、県内のどこでも両方の意味で使うわけではありません。

皆さんに聞いてみた!「しゃーしい」はどっち?

皆さんに聞いてみた!「しゃーしい」はどっち?

先日、SNSで次のような質問をしました。

「しゃーしい」って、どっちの意味で使いよる?

① うるさい
② 忙しい
③ どっちも使う

すると、大分県内外から多くのコメントが集まりました。

最も多かったのは「うるさい」という回答

今回のコメントでは、「うるさい」という使い方が目立ちました。

例えば、

  • 「ガミガミ言われたときや、周りがうるさいときに使う」
  • 「佐伯ですが、①です」
  • 「大分市ですけど①ですね」
  • 「しゃーしいはうるさい。忙しいは『きぜわしい』と言う」

といった回答です。

また、単に音が大きいという意味だけではなく、

「すごく面倒」

「手間がかかる」

「ややこしい」

というニュアンスで使う方もいました。

つまり、「しゃーしい」は音のうるささだけでなく、気持ちの上でわずらわしく感じることにも使われているようです。

一方で「どちらも使う」という声も

「うるさい」が目立った一方、「忙しい」の意味でも使うという回答も複数ありました。

  • 「うるさいが八割、忙しいが二割かな」
  • 「どちらも使います。大分市内です」
  • 「ワシはどっちも使うです。東国東です」
  • 「50代、別府市民です。③番ですねぇ」
  • 「玖珠です。③!」

この結果から、一つの地域内でも使い方が異なる場合があることが分かります。

※今回の調査はSNSに寄せられた任意のコメントをまとめたものです。県全体の使用割合や地域分布を示す統計調査ではありません。

なぜ「忙しい」と「うるさい」に意味が分かれたのか?

なぜ「忙しい」と「うるさい」に意味が分かれたのか?

今回の深掘りで最も興味深かったのが、この疑問です。

「忙しい」と「うるさい」。

標準語では意味が離れているように感じますが、その間に「せわしい」という言葉を置くと、つながりが見えてきます。

「しゃーしい」の語源は「せわしい」?

「しゃーしい」や「しょわしい」は、古くからある「せわしい」に関連する言葉と考えられています。

「せわしい」と聞くと、用事が多く、忙しくしている様子を思い浮かべますよね。

しかし、「せわしい」には、それだけでなく「せかせかして落ち着かない」という意味もあります。

例えば、

「せわしい人だなぁ」

と言ったとき、必ずしも仕事が忙しい人を指しているとは限りません。

せかせか動き回ったり、周りまで落ち着かなくさせたりする人を指す場合もあります。

この「落ち着かない」という感覚が、二つの意味をつなぐ鍵なのかもしれません。

「忙しい」から「うるさい」への意味のつながり

意味の関係を整理すると、次のような流れが考えられます。

忙しい・せわしい

↓

せかせかして落ち着かない

↓

気が休まらず、わずらわしい

↓

うるさい・気に障る

これは、言葉の意味を理解するための一つの説明です。

実際に大分弁の「しゃーしい」が、この順番で変化したと確定しているわけではありません。

しかし、こうした意味の重なりは、古い日本語にも見られます。

実は約500年前にも、二つの意味があった

『精選版 日本国語大辞典』には、「せわせわしい」という言葉が掲載されています。

この言葉には、

  • 非常に忙しく、せき立てられるような状態
  • せせこましく、うるさい・わずらわしい状態

という二つの意味があります。

「忙しい」側の用例は1520年頃、「うるさい・わずらわしい」側の用例は1563年の文献で確認されています。コトバンク

つまり、「忙しい」と「うるさい・わずらわしい」が一つの言葉の中に共存することは、昔の日本語でも見られたのです。

これは「しゃーしい」の意味を考えるうえで、重要な手がかりです。

ただし、「せわせわしい」と「しゃーしい」が直接どうつながったのか、その詳しい歴史までは確認されていません。

現時点では、古い「せわしい」系の言葉が持っていた意味の広がりが、地域によって異なる形で残った可能性がある、と考えるのが自然でしょう。

「忙しい」と「うるさい」の境界は意外と曖昧?

「忙しい」と「うるさい」の境界は意外と曖昧?

今回のコメントには、二つの意味のつながりを考えるうえで、とても興味深いものがありました。

例えば、「忙しいときに『しゃーしい』を使う」という方が、そのニュアンスを説明してくれています。

まっちょれ、そげんいっぺんにゆわれてんでくっか〜

次々と用事を言われて、「そんなに一度に言われてもできない」という気持ちを表すそうです。

この場面を少し想像してみてください。

夕飯の準備で忙しくしているところに、家族から次々と話しかけられます。

「これどこ?」

「あれして!」

「まだできんの?」

そんなときに出てくる、

「もう、しゃーしいなぁ!」

という一言。

これは「今、忙しい!」という意味でしょうか。

それとも「次々に言われて、わずらわしい!」でしょうか。

もしかすると、両方の気持ちが含まれているのかもしれません。

もちろん、これはコメントの用例をもとにした解釈です。

しかし、「忙しい」と「うるさい」をきっぱり分けられない使い方があることは、今回の調査の大きな発見でした。

「しゃーしい」は、忙しさそのものよりも、忙しさによって感じる落ち着かなさやわずらわしさを表す場合もあるのではないでしょうか。

「しゃーしい」と「しょわしい」はどう違う?

「しゃーしい」と「しょわしい」はどう違う?

今回のコメントでは、「しょわしい」という言葉も多く登場しました。

特に目立ったのが、

「しゃーしい=うるさい」

「しょわしい=忙しい」

という使い分けです。

豊後高田市の方からは、この二つを区別して使うという回答がありました。

臼杵市の方からも、同じような使い分けが報告されています。

一方で、「しゃーしい」にも「忙しい」という意味を持たせる方がいます。

今回の資料とコメントをもとに整理すると、次のようになります。

言葉主な意味特徴
しゃーしいうるさい・わずらわしい地域や話者によって「忙しい」にも使う
しょわしい忙しい・せわしい忙しさや気ぜわしさを表す使い方が見られる
せわしい忙しい・落ち着かない両者につながると考えられる言葉

「しょわしい」は大分だけの言葉ではない?

「しょわしい」は、大分県外にも見られます。

宮崎県美郷町の『さいごうの方言』では、旧西郷村内の地区によって、「忙しい」を「せわしい」「しょわしい」と言い分ける記録があります。

さらに「世話焼き」も、地区によって「せわやき」「しょわやき」となっています。

この対応は、「しょわしい」が「せわしい」の地域的な発音の違いと関係していることを考える手がかりです。

ただし、

「せわしい」→「しょわしい」→「しゃーしい」

という順番で変化したと証明されたわけではありません。

言葉が似ていることと、その変化の順番が分かっていることは別なのです。

「しゃーしい」の地域差と世代差

「しゃーしい」の地域差と世代差

今回のコメントでは、大分県内の地域差や世代差も気になる結果になりました。

例えば、佐伯市からは「うるさい」という回答が複数ありました。

国東方面からは「どちらも使う」という回答があり、国東弁保存会の資料とも一致します。

大分市や別府市では、「うるさい」だけでなく「両方」という回答も確認できました。

さらに、世代差を感じさせるコメントもありました。

「自分は『うるさい』だけど、山香のばあちゃんは両方だった」

「年配の人は両方使う人が多い気がする」

もし年代によって使い方が異なるのであれば、以前は両方の意味で使われていた言葉が、一部の世代では「うるさい」に絞られてきた可能性も考えられます。

ただし、これは今回のコメントから生まれた仮説です。

地域差・世代差を確かめるには、同じ地域で異なる年代の話者を比較するなど、さらに詳しい調査が必要になります。

似た大分弁「せせろしい」「しょしょろしい」「せからしい」

似た大分弁「せせろしい」「しょしょろしい」「せからしい」

今回のコメントでは、ほかにも似た言葉が挙がりました。

言葉報告された意味
せせろしいうるさい・騒がしい
しょしょろしい騒がしい
せからしいうるさい・わずらわしい
しかましいうるさい

「せせろしい」は、豊後大野市などから使用報告がありました。

「しょしょろしい」は、臼杵市の方から寄せられた言葉です。

また、福岡・熊本方面では「せからしい」「せからしか」といった言葉も聞かれます。

音も意味も似ていますが、すべてが同じ語源であると確認されたわけではありません。

こうした言葉を一つずつ調べていくと、大分県内だけでなく、九州全体の言葉のつながりも見えてくるかもしれませんね。

かぼみ目線の一言コラム|正解よりも面白かったこと

まとめ|「しゃーしい」の二つの意味は、もともと近かった?

今回、最初に「しゃーしい=うるさい」と紹介したときは、「忙しい」という意味まで深く考えていませんでした。

でも、コメントをきっかけに調べてみると、国東では両方の意味が実際に記録されていました。

さらに「せわしい」という言葉を調べていくと、「忙しい」と「うるさい」が、思っていたほど離れた意味ではないことも見えてきました。

個人的には、ここが一番面白かったところです。

方言を調べていると、

「うちでは、そんなん言わん!」

「それは違うで!」

という意見が出てくることもあります。

もちろん、自分の知っている使い方と違えば、驚くのは自然なことです。

でも、その違いの中にこそ、地域の暮らしや言葉の歴史が隠れているのかもしれません。

「ばあちゃんはこう言いよった」

「隣の町では違う意味やった」

そんな記憶が集まることで、辞書だけでは見えてこない大分弁の姿が少しずつ見えてくる。

かぼみとしては、これからもそんな発見を大切にしていきたいと思います。

まとめ|「しゃーしい」の二つの意味は、もともと近かった?

今回の調査で分かったことを整理します。

  • 「しゃーしい」は「うるさい・わずらわしい」という使い方が広く見られる。
  • 「忙しい」という意味も、国東市の方言資料やSNSコメントで確認できる。
  • 「しょわしい」は「忙しい」という意味で使われ、二つの言葉を区別する人もいる。
  • 「しゃーしい」「しょわしい」は、ともに「せわしい」に関連すると考えられる。
  • 「忙しい」と「うるさい・わずらわしい」は、古い日本語でも意味が重なっていた。

つまり、今回のテーマは、どちらの意味が正しいかという単純な話ではありません。

「忙しい」「落ち着かない」「わずらわしい」という近い意味の中から、地域や人によって異なる使い方が残ってきた可能性がある。

それが、今回の調査から見えてきた「しゃーしい」の面白さです。

何気なく使ってきた大分弁にも、まだまだ知らない歴史が隠れているのかもしれませんね。

皆さんは「しゃーしい」と「しょわしい」、使い分けていますか?

「うちの地域ではこう言いよった!」という記憶があれば、ぜひ教えてくださいね。

参考資料

※本記事は公開方言資料とSNSに寄せられたコメントをもとに作成しました。地域差・世代差に関するコメントは個人の体験や見解であり、地域全体の傾向を断定するものではありません。語源や意味変化についても、確認された事実と推測を区別しています。


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